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最高裁判所第三小法廷 昭和44年(オ)280号 判決

上告人

戸舘儀一

代理人

阿部一雄

被上告人

泉山市郎

外六名

代理人

斎藤茂

主文

原判決中上告人の敗訴部分を破棄し、右部分につき本件を仙台高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人阿部一雄の上告理由第二点について。

債務者が利息制限法所定の制限をこえる金銭消費貸借上の利息・損害金を任意に支払つたときは、右制限をこえる部分は、民法四九一条により、残存元本に充当されるものと解すべきことは、当裁判所の判例とするところであり(昭和三五年(オ)第一一五一号、同三九年一一月一八日言渡大法廷判決、民集一八巻九号一八六八頁参照)、また、債務者が利息制限法所定の制限をこえて任意に利息・損害金の支払を継続し、その制限超過部分を元本に充当すると、計算上元本が完済となつたとき、その後に支払われた金額は、債務が存在しないのにその弁済として支払われたものに外ならず、不当利得としてその返還を請求しうるものと解すべきことも当裁判所の判例の示すところである(昭和四一年(オ)第一二八一号、同四三年一一月一三日言渡大法廷判決、民集二二巻一二号二五二六頁参照)。そして、この理は、債務者が利息制限法所定の制限をこえた利息・損害金を、元本とともに任意に支払つた場合においても、異なるものとはいえないから、その支払にあたり、充当に関して特段の指定がされないかぎり、利息制限法所定の制限をこえた利息・損害金はこれを元本に充当し、なお残額のある場合は、元本に対する支払金をもつてこれに充当すべく、債務者の支払つた金額のうちその余の部分は、計算上元利合計額が完済された後にされた支払として、債務者において、民法の規定するところにより、不当利得の返還を請求することができるものと解するのが相当である。けだし、そのように解しなければ、利息制限法所定の制限をこえる利息・損害金を順次弁済した債務者と、かかる利息・損害金を元本とともに弁済した債務者との間にいわれのない不均衡を生じ、利息制限法一条および四条の各二項の規定の解釈について、その統一を欠くにいたるからである。

ところで、本件において、原審の確定するところによれば、上告人は、被上告人らの先代から三〇万円を利息および弁済期後の遅延損害金とも月五分の約で借り受け、右貸付日から弁済日までの一四か月二二日間の月五分の割合による利息・損害金を含め合計五五五、〇〇〇円を任意に被上告人ら先代に支払つたというのであるから、他に特段の事情のないかぎり、元本三〇万円およびこれに対する右期間に相当する利息制限法所定の利率による利息・損害金をこえる部分について、上告人は被上告人らに対し、不当利得の返還を請求しうるものというべきである。

そうであれば、これと異なる見解のもとに、右制限超過部分について、上告人の本訴請求を排斥した原判決は、右法令の解釈適用を誤つたものというべきであり、この誤りは原判決の結論に影響すること明らかであるから、論旨はこの点において理由があり、原判決は、右部分にかぎり破棄を免れない。そして、本件は、右部分について、さらに審理する必要があるから、これを原審に差し戻すのが相当である。

よつて、民訴法四〇七条を適用して、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(関根小郷 田中二郎 下村三郎 松本正雄 飯村義美)

上告代理人阿部一雄の上告理由

第一点〈省略〉

第二点 原判決は次の判例の趣旨に反する。

一、利息制限法にあつては制限超過利息は裁判上無効と規定されたが、学説上は法律上無効とし、債務者保護の立場から、その返還請求を認めた。(鳩山、勝本、石田、我妻、各債権総論参照)

二、ところが現行法においては、制限超過部分は無効と定めながら債務者が任意に支払つた場合は、その返還を請求できないと規定した。従つて債務者が任意に即、債権者の強制を伴わない債務者自身が自主的に自己の意思に基いて支払つた場合は、その返還はできないことゝなつた。

三、しかし、最高裁は(1)昭和三九年一一月一八日判決において債務者が制限超過利息、損害金を任意に支払つた場合、元本が残存していれば制限超過部分を以て残存元本の支払に充当される旨判示し、更に(2)昭和四三年一一月一三日判決においては右理論を前進させて「債務者が利息制限法上の利息、遅延損害金を支払い、それが元本以上となつた場合は、超過分について不当利得として返還請求できる」旨判示して利息制限法の立法趣旨たる債務者保護の精神を一段と徹底させるに至つた。

四、右判例の趣旨を更に前進徹底させれば、本案利息制限法の制限超過利息(損害金を含む)は無効であるので、仮令債務者が任意に弁済した場合においても、不法原因給付となる場合を除いて、その返還請求を認むべきである。超過利息を数回に支払つた場合は或は、その残存元本充当を認め、或は残存元本を超える部分は、その返還まで認めながら、然り一括して一度に支払つた場合だけ、これを除外する理由はないであろう。

本件の場合は月五分の割合で昭和三〇年四月九日から昭和三一年六月三〇日まで一四ケ月二二日であり、右利息を一五回に分割支払つた場合は前示判例に従い、最後に一括して支払つた場合は、何等超過利息分の請求が許されぬとするのは彼比権衛を失し実質的理論的根拠は発見できない。

五、ましてや、本件の場合は、高利貸である債権者が期限に遅れたから昭和三一年六月三〇日に請求どおり弁済しなければ、抵当物件は全部債権者の所有に帰し、他に処分する旨法律的知識に乏しい債務者たる上告人を半ば強迫したので、上告人としては已むなく、訴外橋本に本件山林を売却して金員を捻出し、要求どおりの金額を支払つたもので、この場合任意に支払つたとは言い得ない。

従つて本件の場合、利息制限法一条Ⅱ、四条Ⅱをそのまゝ適用することはできない。

六、よつて、原判決は前記判例の趣旨に反するか或は亦利息制限法一条、四条の解釈を誤つた違法があり、右は判決に影響すること明白であるから破棄せられなければならない。

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